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論理的思考の力と限界

2024年01月26日

問題解決の重要な要素の一つが「思考の技術」であることは、問題解決能力というタイトルのブログでお話ししました。この思考の技術には「論理的思考」、「MECE(ミーシー)」、「仮設思考」の3つのサブ要素が含まれます。様々な事象の因果関係を論理的に整理し構造化する、眼に見える課題の根源課題を論理的に分解して整理する、課題の解決策を検討する際に、論理的に考えうる解決策案を網羅的に洗い出す。こうした論理的思考とMECEの枠組みに基づくアプローチを取ることによって、直感や思い込みに依存しない、言葉通り合理的な意思決定を促すことができることが「論理的思考の力」であることは言うまでもありません。コンサルタントの価値の一つは、この論理的思考に基づいて、クライアントが抱える漠然とした課題とその背景にある因果関係を整理し根源課題を特定したり、課題の解決策のオプションを網羅的に整理し合理的に優先順位を評価し最適解を提示したり(結果、当初は思いも寄らなかった解決策が出てくるケースもある)、あるいは直感、思い込みから出てきた解決策がなぜ最適解なのかを論理的に説明できるように整理をすることをお手伝いできることだと思います。

しかしながらこうした論理的思考だけでは問題解決はできません。やもするとコンサルタントは論理的思考が前面に出過ぎるが故に、理屈っぽい、頭が硬い、現実を理解していない、といった印象を持たれがちです。そうならないためには、こうした思考の技術を十分に習得した上で、世の中様々な意思決定には非合理性(直感や思い込み)が存在することを理解した上で、問題解決にあたる必要があります。その方法として二つの枠組みをご紹介します。

一つ目が”3-layer problem solving approach“と私が名付けたものです。問題解決のアプローチとして、もちろん論理的思考に基づき合理的に解を導き出すことができるケースが多いですが (Logical Layer)、それに加えて論理的にはこれが原因、これが解決策と考えうる状況においても、感情的な問題が関わっている場合(Emotional Layer)または政治的な問題が関わっている場合(Political Layer)は、別の問題解決のアプローチが必要です。最終的にはこのような枠組みを使うことで、MECEに論理的に解決しようとするアプローチではあるのですが、問題の所在が例えば人の感情に関わるものなら、その感情を踏まえてどのように解決すべきかを検討する必要があり、解決に向けた新たな視点を与えてくれる、ということもできるかと思います。

もう一つの枠組みが”System 1 vs. System 2“です。これは人間の脳が情報処理をする際に二つの思考モードを使っており、その二つは無意識下で連動し同時に動いている、という考え方です。System 1は上記の「直感的」「思い込み」または「経験則」に基づく思考であり、System 2は論理的な思考を指します。この二つが連動していることを理解することで、例えば消費者が特定の商品やサービスを購入するに至った思考を包括的に理解することに役立ちます。このSystem 1の「非合理的な思考のクセ」には様々なものがありこのブログでは割愛しますが、人は非合理な思考や判断をするものである、と理解するだけでも最適解を導き出す上で有用です。よく商品・サービス開発にあたり、ユーザーにアンケートを実施し、主要購買要因(KBF = Key Buying Factor)を分析したりしますが、回答者はその際にはSystem 2思考をベースに回答しがちであり、結果として実際の購買の動機が理解できず、間違った結論に至ってしまう、ということはありがちな失敗例です。もちろんそのような失敗を回避するためにコンジョイント分析など様々な手法が用いられる訳ですが、その限界も理解し、インタビューやエスノグラフィー調査などで補足し、深い洞察を得る努力が必要だと思います。

この二つの枠組みは基本的に「合理的、非合理的思考モードの違いを理解する必要がある」という共通の考えが根底にあります。そして3-layer problem solving aproachのEmotional / Political layersがSystem 1と同様に非合理的レイヤーを指していることもお分かり頂けるかと思います。

そしてもう一点、詳細は今後のブログでお話ししますが、思考の技術のなかの「仮設思考」についても、注意すべき点があります。仮設思考は、論理的思考、MECEのフレームワークに沿って可能性のある答えを網羅した上で、すべての可能性について総花的に分析・評価するのではなく、答えの仮説を立てて、その仮説を検証することに注力することで結果的に効率よく正解を導くことができる、という考え方です。本来であればその仮説が分析の結果反証されることもあり得るのですが、どうしても人間には「確証バイアス」が働いてしまう傾向にあります。つまり仮説を検証する(正しいという結論を導く)ためのファクトだけを集めがちで、反証するファクトには目をつぶる、または軽視する、というバイアスのことを指します。

このように思考の技術を磨き問題解決に適切に活用していくためには、その「力」と「限界」に十分に留意することが重要だと考えます。今後のブログでは、この思考の技術をベースにした様々なお話をしていきますが、その大前提としてこの「限界」があることを前提とした上でのお話しになることをご理解頂ければと思います。

コンサルタント 堤 裕次郎

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